熱中症対策の義務化について

熱中症対策の義務化について

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現場の熱中症対策が義務化された件について

近年の暑さは、まさに異常なレベルになったきて、職場での熱中症対策が必須となっていますが、
これまでは、個々人で、それぞれの方法で対策していたものを、厚生労働省が政令で定めて義務化することで、職場全体の環境を整える狙いで、
2025年6月1日付で熱中症対策義務化がスタートしました。

 

熱中症対策の義務化について

熱中症による死亡事例が年々増加していますが、実際の傾向はどうなっているのか知りたいところです。
そこで厚生労働省の熱中症対策関連のページを見て、統計から出された〔熱中症の災害発生状況〕というグラフに注目しました。
それがこのグラフになります。
熱中症発生状況グラフです。
厚生労働省. 2024年(令和6年) 職場における熱中症による死傷災害の発生状況より
ご覧のように平成30年をピークにその後死亡者数は、減少に転じていますが、
その頃は、新型コロナウイルス(covid 19)が猛威を振るっている最中だったので、
そもそも人との接触も極力避けるような社会情勢だったので、自宅で過ごすことが多く、
過度な運動をすることも無く、ある意味快適な環境で過ごす機会が増えていたからでした。

 

しかし、その後緊急事態宣言の解除や新型コロナの位置づけが2類から5類に緩和されたのに伴い、
新型コロナ前の状況に戻ると共に、職場での仕事内容も以前の状況に戻り、それに呼応するようにここ数年は、右肩上がりに死亡者数も増えて、
令和5年度には、かつてのピークだった平成30年のレベルに近づいて、その後の統計は発表されていませんが、
おそらく既に平成30年のレベルを超えていると推測されます。

 

それだけに、職場における熱中症リスクの低減は、待ったなしの状況で、国として取り組まなければならない課題だったので、
この度、2025年6月1日付で、
労働安全衛生規則の改正省令』が施行されるにいたったものです。

 

熱中症対策の義務化には罰則がある。

今回施行された『労働安全衛生規則の改正省令』には、
これまでの熱中症対策では、不十分だったという反省から、
違反者に対して罰則を科すことで、対策の徹底を図る狙いがあります。
厚労省:労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行等について

 

このところの暑さは異常で、地球温暖化の影響が色濃く感じられるようになっており、
今後益々その傾向が強くなることは、間違いようのない事実で、
それに伴う職場での熱中症による死亡者数も増加することが強く懸念されるので、
自主的な対策に委ねていたのでは不十分だと判断して、強いメッセージとして罰則を設けられたと考えられます。

 

その熱中症の身体作業強度に応じた基準として次の表が参考になります。
熱中症の身体作業強度レベルの表です。
厚生労働省. 2024年(令和6年) 職場における熱中症による死傷災害の発生状況より
ご覧の表で用いられているWBGT値は、気温だけでなく湿度や地面からの照り返しによる輻射熱等を加味して導き出される熱中症リスクの指標となる値です。
作業当日のWBGT値は、環境省の「熱中症予防情報サイト」ですぐに確認できるので、現場作業中でも時々確認して、熱中症リスクが高い時には、こまめな休憩をはさみながら作業するように務めなくてはなりません。

 

この表で見れば建築関係の業種は、主に〔2〕の中程度代謝率以上に該当するので、熱中症リスクの高い業種であることが、分かりますし、
これは、業種別熱中症の発生率にも現れていますので、最も注意すべき業種であることは間違いありません。

 

職場における熱中症による死傷者数の推移は、次の表とグラフのようになっています。
熱中症発生状況グラフです。
厚生労働省. 2024年(令和6年) 職場における熱中症による死傷災害の発生状況より

 

業種別発生状況における建設業の割合と対策

「厚生労働省. 2024年(令和6年) 職場における熱中症による死傷災害の発生状況」の資料PDFによると、
2024年度の熱中症の発生状況は、死傷者数 1,257 人なのに対して、
建設業が228人で約18.138%となっています。

 

この割合は、製造業に次いで高い割合で、強く対策を求められる業種に当たると考えられ、
今後熱中症対策の状況等の聞き取り調査などが行われる可能性もあるので、
建築に携わる者としては、熱中症対策は急務です。

 

熱中症に対して求められる対策

現場における熱中症対策の基本は、WBGT値を用いて作業箇所の熱中症リスクを把握し、
実際の作業現場で熱中症の症状が見られる人を見付けることから始まります。

 

熱中症症状の判断基準

熱中症の初期段階では、よく注意していないと症状を見逃す可能性があるので、
まず、代表的な初期症状をご覧ください。

 

Ι度(軽傷)

  • めまい
  • 立ちくらみ
  • 脹脛等の筋肉のこむら返り
  • 手足のしびれ
  • 気分不快

これが進むと、Ⅱ度(中等症)へと移行するので、初期段階で早期に発見し、適切な対応が必要です。

 

Ⅱ度(中等症)

  • 頭痛
  • 吐き気・嘔吐
  • 体のだるさ
  • 力が入らない

等の症状が出始めます。
Ⅱ度(中等症)では、病院受診が求めらる状態なので、速やかに現場近くの病院を受診するようにしてください。
Ⅱ度(中等症)でも気付かず、症状がさらに進むと危険な状況に陥ります。
主な症状としては次のようなものが現れますので、早急に救急搬送することが求めらる症状になります。

 

Ⅲ度(重症)

  • 高体温
  • 意識混濁
  • 全身の痙攣
  • 真っ直ぐに歩けない
  • 呼びかけの反応しない

このような状況であれば、躊躇なく救急車を要請し、速やかに病院へ搬送するようにしなくてはなりません。

 

Ⅱ度(中等症)以上になると病院搬送が必要と考えるべきですが、
Ⅰ度(軽傷)でも安静にして適切な処置を行っても、症状の改善が見られない場合は、
病院を受診して、適切な診断と処置を受けるべきですので、
Ⅰ度(軽傷)だから」と侮らず、症状の変化を注視する必要があります。

 

熱中症が疑われる人が居たらどうすべきかにつきましては、
厚労省の「熱中症予防のための情報・資料サイト」をご覧ください。

 

このように、熱中症の対処法も症状の重症度によって変わりますし、
何より重症になる前に、気軽に現場責任者に体調不良を申し出られる環境整備が重要です。

 

かつての建築現場と言えば、昭和の根性論がまかり通るところだったので、
少々体調が悪くても我慢して仕事を続けるのが当り前の風潮で、
気軽に体調不良を申し出るなんてことは出来ない雰囲気が漂っていたものですが、
今後は、軽い熱中症であっても、早い段階で申し出て、体調を整え、適切な処置を行うことが求められます。

 

熱中症が疑われる人を見つけた時の対処法

熱中症の応急措置です。
厚労省:熱中症予防のために リーフレットより
この中の左側は、Ι度(軽傷)の方への対処法で、
中央がⅡ度(中等症)以上の症状がある方への対象法になります。
尚、右側は、水分補給に関してですが、
熱中症の症状がある方には、経口補水液が有効ですが、
挿絵の説明文にも書かれているように、一時に大量に飲ませると、ナトリウムの過剰摂取になる可能性があるので、注意が必要ですし、
特に心臓病や腎臓病等の疾患の治療中で、医師から水分摂取について指示が出ている場合は、医師の指示に従ってください。

 

熱中症対策罰則対象作業の有無を把握する。

現場内に熱中症対策義務化の罰則対象作業環境が有るかを把握することから始めます。
現場内でも作業場所によりWBGT値が異なるので、その場のWBGT値を正確に知る必要がありそれに活用するのが、
「日本産業規格(JIS)Z8504」を参考に、実際の作業場所のWBGT値を測定します。

 

その大まかな指標となるのが、
WBGT28度以上または、気温31度以上の環境で連続1時間以上または、1日4時間超の作業か見込まれるどうかというのが、これにあたります。

 

熱中症は、作業の強度や着衣によっても、リスクが高まります。
特に作業強度が高く、通気性の悪い着衣を着用しているときは、通常より熱中症のリスクが高い分WBGT値を低く設定すべきです。

 

仮に熱中症対策義務化の対象外の作業であってもWBGT値や実際の気温の上昇、湿度の上昇など、熱中症リスクが高まる場合は、熱中症対策義務化の対象作業と同等の対処が必要になるので、管理責任者は常に作業環境の把握に努め、対処が必要と判断された場合は、速やかに必要な対処を行わなくてはなりません。

 

それでも、熱中症の症状が認められる人を見付けたら、すぐに責任者に報告し、適切な処置を行わなくてはなりませんし、患者を速やかに涼しいところに移動させ、体温を下げる処置を施した状態で体温の低下を待ちます。

 

処置後、体温の低下が見られず、症状が少しでも悪化するようなことがあれば、躊躇なく救急車の出動を要請し、救急搬送するようにしなくてはなりません。
救急搬送時には、発症時の状況を把握した者が同行し、医師に発症時の状況を詳しく説明するようにすることも合わせて、求められるところです。

 

それと、作業員の疾患の有無を把握し、治療中の場合は、医師から特別な指示が出ていないか等も聞き取っておく必要があります。
これは、応急処置の段階での水分摂取の方法や量等を調整する等の他に、
救急搬送後、病院の医師に詳しく疾患の有無等を知らせるために必要になるので、現場責任者は、作業員全員の状況を把握しておく必要があります。

 

作業員への周知徹底が大切です。

準備した熱中症対策マニュアルや対処法に関して、関係する作業員全員に周知徹底し、漏れなく自分事として考えてもらい、
予防策、緊急時の対応手順等については、送り出し教育等の機会を捉えて、しっかり教育するように務めなくてはなりません。
ただ印刷物を配布して終わりでは無く、徹底した意識改革と自ら行動することで、人の命を救うことができるという意識を持たせることが大切です。

 

労働衛生教育の実施は、厚労省や環境省のサイトに掲載されている教育教材を活用することが推奨されていますが、
事業者自ら実施することが難しい場合は、外部の関係団体が行う教育を利用すればいいでしょう。

 

 

現場の管理責任者は、常に現場で作業する人員が作業に適した服装であるか等をチェックし、必要であれば、熱中症になりにくい通気性の良い服装等のアドバイスをすることも、躊躇なく行うことが大切になってくるので、現場責任者も意識の改革が必要になってきますし、
意識改革という点では、建築現場全体が一体となって、意識を変える必要があるでしょう。

 

熱中症で大切な仲間を失わないために会社も作業員も一緒に、しっかり熱中症対策を行ってください。